"RAINBOW"に収録する新しい曲を書き始めたのは、ずいぶん前の話になる。
2008年に発表した前作"LIFE IS GOOD"の後、バンドとしての音の方向性をずっと探していた。
けれど、レコーディングの日程が決まり始めても、僕はそれをなかなか見つけられないでいた。
いくつかの曲は完成していたのだが、机の前で、あるいは公園のベンチで、
あるいは街の雑踏の中で、永遠に見つけられない忘れ物を必死で探しているような気分だった。

それでも時間は容赦なく過ぎて、レコーディングは近づいてくる。
前回に引き続いて、ベーシックは小淵沢の星と虹レコーディングスタジオで行うことにした。
コントロールルームからは南アルプス。クリエイティブな気持ちが最大限に発揮される場所だ。
ここ数年、毎年通い詰めている。自分の人生にとっても大きな意味を持つポイント。

結局、最初のセッションでは、自分が作詞作曲を両方とも手がけた曲は1曲も無かった。
見かねたメンバーが、曲を創ってきてくれた。
keyのあつこは『あいのうた』、Drumのコジマは『空港にて』をそれぞれ作曲してくれた。
最終的にアルバムには、この二人が作詞したり作曲した曲が5曲、収録されている。

『RAINBOW』というアルバムタイトルは、あつこの発案だった。
今までは、僕の持つ世界観をバンドで表現していく形態だったのだが、今回はメンバー一人一人の
意思が反映されて、色んな色に輝いている。それを表現した言葉が、レインボウ。
前回のアルバムではバンドに加入したてで、半分ほどの参加だったBassのスグルも、今回は
すべての曲に自分の色を出している。
レコーディングが進むにつれて、4人がガッチリと固まってくるのがわかった。
僕らは決して演奏が上手なバンドではないから、勝負するところはアンサンブルしかない。
何度も練習をかさねて、僕らにしか出せない音を出す。これ以外に一体何が出来るだろう。

あまりにも歌詞が書けなくて、締め切りも迫ってきたある日の午後、僕は不思議な体験をした。
いつものように自分の机に座り、コーヒーを飲みながら言葉を紡いでいると、
まるでバケツをひっくり返したかのように、言葉のシャワーが降ってきたのだ。
まさに、土砂降りだった。僕は4時間の間に、3曲の歌詞を書き上げた。
（『スパイダー』、『君がいない』、『Star&Rainbow』の3曲だ。）
自分自身の中から出てきたとは思えなかった。
どこからか言葉は降ってきて、僕はそれを落とさないように捕まえて、
白い紙に記録していく。ただ、その作業を延々と続けたのだ。

誰かが言ってた。
何かをつくり出すことは自分を無にすることで、自分は創造者ではなく、
ただ、世界の意思を媒介しているだけなのだと。

そこまで高尚な感覚ではないにしろ、僕は僕以外の存在を感じずにはいられなかった。
だから未だに、僕であって僕ではない、この3曲を歌う時は不思議な気分になる。

植物にも動物にも、人間にも、もしかしたら風の中にも意思があり、
色んな想いが、渦巻いているのかもしれない。
そう思うと、いつもの何気ない景色が妙に色彩を放って見えてくる。
時々、それが強すぎて気持ち悪くなってしまうこともあるけれど。

見えるか、見えないか。答えは風の中にしかない。

ミックスダウンも佳境にさしかかった頃。2011年3月11日。
いままでの価値観や考え方、生き方さえも180度変えてしまうような、
大震災が起きた。

震災前に作った曲が、改めて聴き直すとまた違った意味をもって響き始めた。
この時期に新しいアルバムを出すことの意味についてもずいぶん考えた。
何かの意味があるのかもしれないし、意味なんか無いのかもしれない。
何が正しいのか、何が間違っているのか、誰にもわからない。

ただひとつ、はっきりしていることは僕らはこのアルバムを持って、
僕らの音楽を誰かに届ける為に、旅に出るということだ。
そしてもし聴いてくれたあなたが、たとえまぼろしでも、いつもと変わらぬ景色の中に
自分だけの"RAINBOW"を見いだすことが出来たのなら、
こんなに嬉しいことは無いと思う。

僕たちが音楽を奏でることの意味はそこにある。

2011年5月　　　　　佐藤ワタル